教科書は読まなくてもOK! スポーツは禁止! 中世大学ものがたり
みなさんこんにちは! アメリカ留学ラボのカイトです。とてもお久しぶりです。更新が滞りがちになってしまい申し訳ありません。今後はせっせとこまめに記事を載せていきますので、引き続きの応援をよろしくお願いします!今回のアメリカ留学ラボでは、ちょっと前にnpr(National Public Radio)で紹介された、大学の歴史にまつわる書籍――“Wisdom’s Workshop: The Rise of the Modern University”(James Axtell著)――の内容についてお話しします。

アメリカの大学のルーツをたどる
この本は、現代のアメリカの大学のルーツを中世にまでさかのぼって、その頃の大学のありかたを描いています。たとえば、中世においては紙がとても貴重なものであったので、いまのように学生たちがノートを持つことはなく、石版に尖筆でけずるようにしてメモをとっていたこと。
また、西暦1500年より前には、最大規模のオクスフォード大学(イギリス)ですら蔵書数は400冊に過ぎず、その他の大学では250冊にも及ばなかったこと。しかもこれらの書物はつねに講義台に鍵づけにされていて、学生は手に取って見ることすらできなかったそうです。
現在、ハーバードの蔵書数は1,700万冊に近いと言われています。デジタル化も急ピッチで進んでいますので、この数はきっと増える一方でしょう。

真理はすでに明らかだった?
もっとも、当時の学生たちは、たくさんの本を読む必要はありませんでした。「真理」はすでに、聖書と古典哲学によって明白なものだった(少なくともそう思われていた)からです。大学の役割は、その真理を教師から学生へと伝えることに過ぎなかったようです。とくにアリストテレスの哲学はよく取り扱われました。いまのように学生自らが課題を掲げて、自主的にリサーチを行うようなことはそもそも期待されていなかったのですね。
アメリカの大学も1800年代までは同様の状態だったようです。それが、ドイツ型――独創的なリサーチを実施する型――のアプローチが招来され、ようやく第二次世界大戦後に本格的に「リサーチ型大学」へと変貌していきました。

少年たちの学園生活
入学基準もいまに比べるとうんと緩やかでした。いかに学生を選抜するかではなく、いかに学生を集めるかということに腐心していたのが1700年代までの大学です。当時の大学1年生の平均年齢は16歳でしたが、12歳くらいで大学に入ることもめずらしくありませんでした。ちなみに当時の大学はすべて男子大です。学生たちはまだ子どもといえるような年齢でしたから、教師たちは親のように学生に接し、また厳しい規律を設けるのも普通でした。食事や礼拝の時間が厳しく決められていたのはもちろん、寮の部屋のチェックも行われました。カリキュラムもまた厳正なもので、学生が自由にカリキュラムを組めるということはなく、みんなが同じ科目をとりました。一つの大学に一つの課程しかない、というのが当たり前だったわけです。
スポーツは禁止です
課外活動に目を向けると、いまでは「大学スポーツ」といえばNCAAをはじめとして、大学も多額の予算を注ぎこんで施設と指導を充実させ、その試合興行による収入も莫大なものとなっていますが、当時はスポーツが奨励されることはありませんでした。1500年代のイギリスの大学ではサッカーが禁止されていたほどです。アメリカですら、南北戦争以前は、学生の集中力を削ぐという理由でスポーツを禁止する大学がたくさんありました。そのためか、学生のストレスも溜まりがちだったようです。鶏泥棒、先生の部屋の窓に石を投げつける、屋外の小屋を燃やす、決闘、女装……等々による罰則の記録が残っています。Dashとかdratといった「乱暴な言葉づかい」に対しても罰が待っていたそうです。
ちなみにアメリカの大学で最初にできた運動部は、イェール大学の競艇部で、1843年のことです。1852年にハーバードとの試合が行われ、これが大学間試合の嚆矢となりました。

ラテン語=インテリたちの標準語
当時の学問の標準語はラテン語です。授業中だけでなく、生活のすべての局面においてラテン語を話すことが求められていました。イェール大学では、1774年までラテン語で話すことがルールとされていました。アメリカの大学では、ラテン語の次に標準語になったのがドイツ語です。南北戦争以前には、博士号を取るためにはドイツに留学して、ドイツ語で論文を書かなければならなかったそうです。
いまでもアメリカの大学を卒業するためには英語以外の外国語を修めなければなりませんが、私たち留学生はすでに母語として外国語を使えるので、この必修は免除されます。それでも選択科目としてフランス語やスペイン語を学ぶ留学生はたくさんいます。

いまも昔も変わらない「お金」のこと
これらのほかにも、いまの大学と比べると奇異に感じられる特徴がいくつか紹介されていますが、貧しくても能力のある若者に奨学金を出すという習慣は昔からあったようです。大学の運営を、学生から徴収する授業料ではなく、卒業生からの寄付に頼るという風習も古いもののようです。アメリカではすでに1650年くらいには、卒業生に寄付を募っていたとのこと。アメリカで最初の大学であるハーバードができたのが1636年。ハーバードという人が蔵書を寄付したことで名づけられたくらいですから、寄付の歴史は大学の歴史と同じくらい長いということになりますね。

アメリカ留学を考えている人にとって、中世の大学のことなど興味がないかもしれません。でもいまのアメリカの大学も、古くは中世ヨーロッパの大学の伝統を少なからず受け継いで成り立っています。「リベラルアーツ」なんていう概念も、そのルーツをたどれば古代ギリシャにまで行き着くわけですしね。
それでは次回の「アメリカ留学ラボ」にご期待ください。See you soon!
参照記事:Wax Tablets, Chicken Rustling And The Medieval Roots Of The Modern University
投稿日:2016年06月01日(Wed)

【あわせて読みたい関連記事(現在は最新記事のみ最大5件載せています)】
おすすめしないアメリカ留学の方法
アメリカ留学をおすすめしない理由。治安? 人種差別? 費用?
名前に「カレッジ」とつく大学ってみんな短大なの?
アメリカ留学中のおすすめアルバイト
アメリカの大学に留学するのに、ビザ申請ってどうすればいいの?